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第9のレシピ 暗黙知をどこまで形式知に置き換えられるか?

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 いきなり料理の話ですが、先日、鴨川(千葉)の友人が生きた伊勢海老を送ってくれました。その立派な姿に喜んだものの、どう処理すれば伊勢海老料理が楽しめるか?すぐにYoutube を立ち上げ、処理の仕方⇒調理の仕方と進み、無事、伊勢海老を堪能できました。今はほとんどの料理のレシピはインターネット経由で手に入れることができます。Webは幾世代にもわたって受け継がれてきた料理作りのノウハウを一挙に世に広めました。情報の民主化の恩恵ですね。
 今回と次回は「暗黙知から形式知への置き換え」をテーマにお送りします。今まで「新時代コンタクトセンター構築のレシピ」として取り上げてきたお話の根幹となるテーマです。そもそもこの「暗黙知」「形式知」という概念ですが、1960年代に提唱された個人の知識を区別する視点です。我々が話す言葉は全て「形式知」ですし、文書や数式や図表なども「形式知」です。伊勢海老のレシピも調理法という「形式知」です。一方、個人が身に着けた運動能力や個人に蓄積された知識、ノウハウ、長年の勘などは「暗黙知」になります。ひとり一人が持っている固有の知識は「形式知」にできない「暗黙知」の領域がかなり多く、「形式知」は海面に突き出た氷山にすぎず、その下に豊かで深い「暗黙知」が沈んでいると言われています。これは企業にも当てはまり、伝統的な日本企業ではベテランの「暗黙知」が次の世代に受け継がれ企業風土や文化が培われてきました。しかし終身雇用制や雇用形態の変化は、「以心伝心」のような「暗黙知」に企業活動を任せてはおけない状況に陥っています。

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 コンタクトセンターでも、この2つの「知」が交錯します。お客様との応対に必要なナレッジ(スクリプト、FAQ、商品・サービスマニュアルなど)は全て「形式知」です。センターの運営に必要な応答率、サービスレベル、AHTなどのKPIも「形式知」です。従来からこうした「形式知」を可視化しオペレーターが共通の情報を基にお客様と向かい合うという活動が続けられてきました。更にここ数年「形式知」領域でのデジタル化が加速しています。一方、「お客様の気持ちに寄り添う」「要件を着実に把握する」「より良い提案をする」といったコールセンターが応対品質として大切にしてきた部分は、オペレーターの資質や経験といった「暗黙知」に存しています。例えば商品説明をしていて、お客様から意見を求められたとします。そのお客様に合っている商品を的確にお伝えできるのは正しい商品知識とともに長年の経験に負うところが大きいのです。また、クレームのお電話を受けたときもマニュアル通りの受け答えをしてしまったために、事態がさらに悪化するということがよくあります。まったく同じクレームを受けても経験豊かなベテランのオペレーターはお客様との対話を通じて的確に対処できます。ここでは型にはまらないオペレーターの資質と経験がものを言うのです。
 新時代のコンタクトセンターはこの「暗黙知」の「形式知」化にどう向き合えば良いのでしょう。まず大切なことは、「形式知」に置き換え可能かどうかを真剣に考えているか?という点です。「暗黙知」は「形式知」化されることで初めて顕在化し多くの人に使われます。「形式知」の可視化と言っても、ただ文書にすれば良いわけではありません。お客様からの問い合わせのたびに、文字ばかりが書かれた分厚いマニュアル冊子のページを広げていたのでは、効率化はもとよりお客様からの信頼を失ってしまいます。まずは「暗黙知」の中にある共通の事実を抜き出し、パターン化できるものを丁寧に文と図によって表現します。更にある仮説をもとにイメージを作り、「使えるナレッジ」に仕立て上げることです。ここでのポイントは見やすく、使いやすいシンプルなUI(ユーザーインターフェイス)を作ることです。ナレッジツールはたくさん世にでていますが、どんなに機能が充実していても使いにくい道具は結局使われなくなります。また、一度整理されたナレッジも状況に合わせて変化しますので、センター内でアップデートできるツールであることも選定の条件です。

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 「形式知」⇒ナレッジの可視化⇒デジタル化が進むと、その一部は人が応対しなくてもBoT(テキストもしくは音声)での応対が可能になります。つまり整備されたナレッジは新たにBoTの活躍の場を提供し、よく言われる「簡単な用事はロボットで!」という世界が開けるのです。逆にいうと「暗黙知」の部分はロボットには対応できないとも言えます。例えば「お客様の質問の意図や背景を理解し、いくつかある選択肢から適切なものを提案する」といった行動は現在のロボットにはできません。最近AIをコンタクトセンターで活用したいという相談をよく受けますが、「暗黙知」の領域をBoTで対応したいというケースが多いのです。特に経営層の方に理解してほしいポイントです。しかし機械学習や深層学習の研究が更に進むと、「暗黙知」の領域でもロボットの活躍する場面が徐々に拡大していくことになるでしょう。
 では現在のコンタクトセンターでは「暗黙知」はどのように共有化され組織の力にすることができるのでしょうか。料理の話に戻りますと、しっかりしたレシピがあれば誰でもまったく同じ料理ができるか?というと、そうでもないことに気づきます。特に少し手の込んだものになると料理人によってまったく違った出来上がりになります。勘や経験の領域がぐっと広がり、その料理の美味しさが際立ってきます。この勘や経験の領域をコンタクトセンターはどうやって克服するのでしょう。コンタクトセンターにはいくつかのチームがあり、日々共通のKPIやKGIを設定して活動しています。このチームの力が「センターの暗黙知」に寄与します。同じ経験をし、対話を重ねることでチームの「共通の経験知」と「共通の意識」が出来上がっていきます。そのチームが集まってお客様との良い関係を作るという、センターとしての新たな「暗黙知」が出来上がっていくのです。

 次回は「暗黙知の形式知への置き換えは自らの手で!」と題しインハウスセンター構築のレシピをお送りします。

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出水 啓一朗 (Keiichiro Demizu)
1974年信越放送入社。2003年WOWOW常務取締役、2006年スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現スカパーJSAT)執行役員常務、2009年同社取締役執行役員専務兼マーケティング本部長を経て、2011年スカパー・カスタマーリレーションズ代表取締役社長に就任。2019年6月同社退任。

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