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第3回 DX幻想を叩き斬る 後編

前編、中編で、PDCA幻想、デジタルマーケ幻想、データ&AI幻想、デザインシンキング幻想と、日本企業の経営陣がハマっている4つのDX幻想についてお話ししてきました。
後編では、残り3つの「POC幻想」、「情シス幻想」、そして「アナログ幻想」を見て行きましょう。

図表:当連載の全体構成 ※〇数字は連載回

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DX幻想5.POC幻想 ―安全なところで試しておけば、デジタル変革が進むと思っている

 デジタル変革を力強く推進した結果、もし誤った方向に企業を導いてしまったら、取り返しがつきません。誰も、こんなことはしたくないでしょう。そうならないために、まず小さく安全な形で、計画するデジタルのコンセプトの実効性を検証する活動が、POC=Proof Of Concept(実証実験とほぼ同義)です。多くの企業が、デジタル変革を進める上で、POCをいくつも実施しています。
 しかし、今、POCを実施したが、そこから先に進められないと言う問題に、色々な企業が直面しています。小さくPOCはやってみたものの、そこからさっぱりコアビジネスが変革するような絵やプランが描けないのです。
 この理由は、POCを本丸のデジタル変革からの”逃げ道”にしてしまっているからに他なりません。コアビジネスを刷新するようなコンセプトは、現行ビジネスの否定であり、コスト削減によって安定的に利益が出ていたら、コアビジネスのデジタル変革など危険思想にもなりうるものです。ならば、安全な場所で、「とりあえず商用実証実験(POC)でもやって、デジタル変革を進めている振りをしておこう」と言うインチキが、POCから先に進まない要因です。
 尚、このPOC幻想や第二回目で紹介したデザインシンキング幻想の派生形で、最近はトレンドもやや収まって来ましたが、一時期、盛り上がっていたのが、「オープンイノベーション幻想」です。この流れで、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を設立したり、アクセラレータープログラムを実施していた企業も少なくありません。
 オープンイノベーションとは、自前主義の研究開発に対して、自社の課題やテーマを、スタートアップや大学研究機関など外部機関に広く声をかけて、良いアイデアを募集するという手法です。しかしながら、日本ではなかなかオープンイノベーションが花開いたという事例は耳にしません。まず知財管理、秘密保持の観点で大企業側に柔軟性がなくトラブルに発展すること、そもそも募集をかける課題を大企業側が効果的に設定できないこと、そしてこれはPOC幻想に行きつきますが、結局、スタートアップと一緒にPOCをしてもスケールさせられないこと(スタートアップにスケール化のノウハウはありません)などから、残念な失敗で終わりがちです。
 ややこしいのが、上のCVCが政治案件化してしまうケースもあります。Ph.Dのような技術バックグランドのなく、目利きもできない文系サラリーマン投資担当が、出資ノルマをこなすため、時に関係先や紹介者への忖度で出資してしまい、その上、出資したのだから事業部は、他により良い技術があっても、「このCVC出資先を起用せざるを得ない」という、悲しい事象もあるようです。

DX幻想6.情報シス幻想 ―デジタル変革は、情シス部門に任せている

 デジタル変革を企業組織の中の、どこで推進するか?―実はこれは、日本企業に限ったことではなく、世界中のあらゆる企業を悩ませている重要経営アジェンダになっています。
 残念ながら、日本企業の経営者は、海外企業の経営者と比べると、システムやITへの造詣が必ずしも深くありません。海外企業では、極論で言えば「IT=経営」ぐらいの気概で、ITが経営の根幹をなす重要テーマとして、CEOとCIOがタッグを組みながら、巨額のIT投資を進めて行きます。
 一方、日本では、経営者はよくわからないシステム、ITはコストセンターの情報システム部門任せと言うことが少なくありません。所詮、コストセンターと言う位置付けの情報システム部門も、IT予算によるベンダーマネジメントが中心で、とても自社内にエンジニアリソースを確立して、IT力を競合優位性にして行こうと言う気概はありません。
 このデジタルシフトの時代、恐ろしいのは、「システム、ITもデジタルも一緒だろ」と言う誤解から、情報システム部門に全面的にデジタル変革を委ねてしまうことです。普通に考えればわかることですが、コストセンターと位置付けていた(そして、特技=ベンダー選定の)バックオフィス部門が、なぜ次世代への企業進化を主導する、デジタル変革の担い手となれるのでしょうか?

DX幻想7.そして、アナログ幻想 ―デジタルより、人との温もりが大切だと思いたい

 現代の生活では、デジタルと言う言葉を意識せずとも、様々なテクノロジーの恩恵を受けています。それにも関わらず、デジタル変革についてだけ、「人の温もり」を持ち出して、デジタルへのアレルギー反応を出し始める人が、たまに現れます。「デジタルのような無機質、冷たいものより、人間はもっと人と人との温もりを求めている」と言う主張です。
 「デジタル=非人間らしさ」と決めつけ、得体の知れないデジタル変革から逃避しているような姿勢と言わざるを得ません。ならば、人は、鉄の塊と炎で動く自動車よりも、温もりある馬が引く馬車を選ぶべきなのでしょうか?
 けっしてデジタルのない原始時代のような生活は受け入れずに、日々、スマホやWEBなど現代のテクノロジー、デジタルの恩恵はたっぷり受けながら、デジタルの未来に「人間性がない」と断じるのは、自己矛盾しています。
有名な次の言葉があります、

「未来を予測する最善の方法は、自らそれを創りだすことである」
(アラン・ケイ 米国のコンピューター学者)

未来が見えない時代だからこそ、自ら理想の時代を創りに行く―企業経営に、このようなリーダーシップが、今ほど求められている時代はありません。ましてDX幻想なんぞに、惑わされている場合ではないのです。

図表:叩き斬るべき、7つのDX幻想

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第1回 DX幻想を叩き斬る 前編
第2回 DX幻想を叩き斬る 中編

植野 大輔(Daisuke Ueno)
早稲田大学政治経済学部卒、商学研究科博士後期課程 単位満了退学。三菱商事(情報産業グループ)に入社、在籍中にローソンに約4年間出向。ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマートに入社、改革推進室長、マーケティング本部長を歴任の後、デジタル戦略部長に就任。デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導。2020年3月、DX JAPANを設立。

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DX JAPAN代表の植野大輔氏が、三菱商事、大手コンビニ、外資系大手コンサルを経て、ファミリーマートに入社、デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導した経験から、DXの実状とあるべきDX実践についてお伝えします。

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