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第1回 サービス産業のデジタルシフトを目指して

今回の連載にあたって

 組織人事コンサルタントとして14年間、あらゆる組織課題に向き合ってきた経験から、数百規模の店舗を持つ組織の場合、店舗内の業務効率化や生産性向上にはIT活用が必須だとの強い思いを抱き、2017年、私は店舗サービス業に特化したリテールテック企業を創業しました。現在は食品スーパー、アパレル、アミューズメント、外食、ホテル、清掃といった大手サービス業の業務効率化を促進するため、自社開発のアプリ「はたLuck®︎」を活用した生産性向上施策を提供しています。
 しかしサービス産業全体のデジタルシフトには、依然として多くの課題が残されています。この連載が少しでも業界のデジタルシフトを推進し、店舗の生産性を高め、働く人々とお客様に喜ばれるお店づくりのために貢献できれば幸いです。

コロナショックがもたらした不可逆的なパラダイムチェンジ

 2020年、新型コロナウイルスにより世界中が大きなダメージを受けました。ビジネスにおいてもリモート勤務、オンラインMTGが一気に普及しましたが、私たちもこのニューノーマルに適応できてしまうと、今度はそれ以前のやり方に戻れなくなるものです。つまり、今まさに不可逆的なパラダイムチェンジが全世界で起こっていると言えます。さらに今後は、一般にリモートワークは無理とされている、店舗サービス業に従事する人々(エッセンシャルワーカー)をも巻き込み、展開していくと考えられます。例えば、タッチポイント以外の非コア業務である採用面接や新人研修などはオンライン業務に切り替えられます。また、店舗で行なっていたシフト調整や業務連絡などもスマホを活用することで非接触によるコミュニケーションが可能になります。このような変化に適応できた企業こそがWith・Afterコロナ時代に業務効率を上げ、利益を残せる体質に変わると考えています。

店舗サービス業のIT化を停滞させているのは、リテラシー問題ではない

 オンライン化を進めようとすると、従業員のITリテラシーが問題とよく言われます。しかし私はそれ以上に、違う判断軸が変化を阻んでいると思っています。
 それは、日本独特の「正規雇用」と「非正規雇用」という雇用区分による区別です。正規雇用は、「投資する対象」であり、非正規雇用はアルバイト・パート社員として「投資しない対象」という暗黙の了解がある気がします。なぜ、そのような暗黙の了解が作られたのか?それは、これまでのサービス業界が競争の中で「サービスの価格や価値を上げる」のではなく、「正規雇用の比率を下げて非正規雇用を増やす」ことで利益を上げてきたからです。「非正規雇用を増やす」とは、「固定人件費」を「変動人件費」に変えることであり、景気変動時に柔軟な雇用調整を可能にしてきたという「経営政策」が根底にあります。よって、すぐに調整可能な人件費という認識が強く、投資する対象となり得なかったのです。よってサービス業の従業員に対する教育投資は低く、店舗業務の効率化や生産性向上のため、攻めのIT投資が行われてこなかったのです。

男女別・年齢階級非正規雇用の割合推移

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出典: 内閣府 男女共同参画局
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/h26/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-06.html

 一方で、正規雇用の比率をかなり下げてしまったために正社員は1店舗に1〜2名しかいません。つまり実際の「顧客への価値提供」の大部分は非正規社員が担っているということになります。それにも関わらず、非正規社員を戦力化し業務効率を上げるためのIT投資ではなく、人を削るためのIT投資だけが考えられてしまっているのが実情なのです。

店舗業務の効率化の鍵はBYOD

 非正規雇用のアルバイト・パート社員が主役の店舗において、デジタル化の鍵を握るのが個々人のスマートフォンを活用した「BYOD(Bring Your Own Device)」の積極活用だと考えています。日本でもBYODの許可による業務効率化は狙っていくべき指標として注目されています。

各国企業が導入している ICT

図2

出典:ICT の導入・利活用への取組状況に関する国際企業アンケート
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd132110.html

 コロナ禍においての店舗の業務効率化、生産性向上や利益の確保を考えると、BYODの活用は不可欠だと思います。これまでのような紙のノートによる情報共有や店舗に1台のPCで行なっていた業務は、全て「店舗に行かなくてはできない」「誰かがPCを使っていたらできない」という非効率性を生んでいたからです。
 実際に日本でのスマートフォン普及率はかなり進んでおり、個人のスマートフォン保有状況は67.6%に達しており、生産年齢人口(15歳から65歳未満)で区切れば約8割と、業務で活用できるデバイスになってきているのです。(総務省「令和元年 通信利用動向調査」より算出)

 BYOD活用は他にもハードデバイスの投資を抑制できることがメリットです。多くの人を雇用しているサービス業で一人ひとりにスマートフォンを配布するのは現実的ではありません。また、専用ソフトを開発するのではなく、スマホアプリを活用する事でソフトの開発費も限りなくゼロにすることができます。また、月額のサブスクリプションでソフトウェアの提供を受けることで、初期投資を極小化することも可能になります。私たちのようなサービス業に特化したVertical Saas企業(Vertical Software as a Service)も誕生してきているため、業界の特性に合ったソフトウェアサービスを受けられるようになってきたのも近年の大きな変化だと言えます。

 逆に、BYODのデメリットといわれるのがセキュリティです。個人の端末を利用することで情報漏えいのリスクを負うからです。しかし、それを担保したソフトウェアを選択すれば、圧倒的なメリットを享受することができるのです。
 次回からは、店舗サービス業のBYODによる生産性向上について詳しく述べていきたいと思います。

★この著者の連載
第2回 BYOD活用における情報漏洩問題について
第3回 サービス産業の「収益構造」から考えるBYOD活用
第4回 BYODで可能になる、画像を活用したリモートマネジメント
第5回 BYODアンケートから見えてくる、スタッフの本音

ナレッジ・マーチャントワークス株式会社 代表取締役 染谷 剛史
1976年 茨城県生まれ。1998年 リクルートグループ入社、中途・アルバイト・パート領域の求人広告営業に従事。2003年 株式会社リンクアンドモチベーション入社(東証1部上場)、大手小売・外食・ホテルといったサービス業の採用・組織変革 コンサルティングに従事。2012年 執行役員就任、新規事業開発(グローバル事業立ち上げ、健康経営部門の立ち上げ)を経て、サービス業に特化した組織人事コンサルティングカンパニー長。2017年 ナレッジ・マーチャントワークス株式会社を設立、代表取締役に就任。
◆店舗改革プラットフォーム「はたLuck®️」 https://hataluck.jp/
◆染谷代表のブログ「染谷のSWX総研」 https://kmw.jp/column/

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