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第2回 DX幻想を叩き斬る 中編

 様々な会社で、デジタルの責任者、スタッフの方々を悩ませているのが、経営陣がDXに対して変な幻想にハマっていることです。なかなか、それを直言することもできないようで、世のデジタル変革リーダー達の声を、私が代弁するつもりで、DX幻想についてお伝えして行きます。
 前編のPDCA幻想に続いて、中編ではデジタル流行語的な「デジタルマーケ幻想」「データ&AI幻想」「デザインシンキング幻想」を見て行きましょう。

図表:当連載の全体構成 ※〇数字は連載回

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DX幻想2.デジタルマーケ幻想―BUZZやSNSがデジタル変革だと勘違いしている

 残念ながら、日本企業の多くでは「マーケティング」と言う概念が正しく理解されていません。大半は、「TVCMなど広告宣伝と、そこにちょっと市場調査でもやるのが、マーケティングだ」と誤解されてしまっています。
 ここではマーケティングの定義を詳しく解説することはしませんが、一つ言えることは、広告宣伝はマーケティング概念のごく一部の要素にすぎず、本来、マーケティングとは、顧客起点で企業活動をデザイン、チューニングしていく、はるかに大きな企業活動です。
 このようにマーケティングの理解も怪しいところに、さらにややこしいのは「デジタルマーケティング」と言う言葉が普及してしまったことです。デジタルつながりで、「デジタル変革=デジタルマーケティング」と言う、大きな勘違いが横行しています。
 「SNSでもっとBUZZらせろ」「うちも、インスタグラムを活用しろ」など、デジタル音痴の経営陣が、自身がギリギリ理解できる手近なデジタルに飛びついて、これをデジタル変革だと思っているなら、大きな勘違いも良いところです。
 企業のデジタルマーケティング部隊の主業務は、自社HPの管理や、Yahoo!やYouTubeなどのオンラインメディアのデジタル広告出稿、そしてTwitter、LINEなどの自社アカウント運用、最近では自社アプリの企画運用なども含まれて来ました。つまりは、実事業のほんの表層的な部分を担っているにすぎないわけです(もちろん、デジタルマーケティングの重要性は増すばかりですが)。
 それにも関わらず、もし”デジタル”と言う言葉の共通項から、「全社デジタル変革は、デジタルマーケティング部隊が推進主導する」と言う方針であるなら、デジタルによる構造改革やビジネスモデル革新が本質であるDXが、まったく理解されていません。

DX幻想3. データ&AI幻想―AIでデータを廻せば石油になると思い込んでいる

 気づけばビッグデータと言う言葉も、最近はあまり聞かなくなって来ました。一方、そのビッグデータを飲み込むようなコンセプトとして広がっているのが、AIやディープラーニングと言う言葉です。
 これまたよくある幻想が、「とにかく自社の持つデータをAIに入れたら、AIが”打ち出の小槌”となって、人知を超えた答えが出る」とか、「自社のデータは宝物で、皆が欲しくてたまらない情報だから高値で売れる」と思い込んでいるものです。
 現時点でAI技術は、膨大なデータの中から(多変量解析的に)相関関係を導出したり、テキスト・画像データをパターン認識で自動判別する、と言う能力に長けています。これらを実現するためにも、データサイエンティストやエンジニアなどの専門家達が、大変な労力をかけてデータを収集整備し、AIソリューションを駆動させるためのシステム及びネットワーク環境構築、さらに運用開始後に継続的なチューニングを行う必要があります。ありものデータを突っ込んだら、企業価値を上げてくれる斬新なビジネスアイデアを「自動的にAIが導き出してくれる」、そんな空想科学は残念ながら存在しないのです。
 本来、デジタル時代におけるデータの真価とは、顧客起点でユーザーに圧倒的に便利なサービス、もっと言えば優れた体験を提供するために、それらを下支えするものに他なりません。当然、この裏では膨大な高速演算処理をAIが実行しています。つまり、パーソナライズされた高品質なサービスを受けられる便益があるから、ユーザーはデータを提供するという構図です。   
 また最近では、ユーザーの個人データを高値で売ろうと言う魂胆も、日本の外の諸外国では御法度になり始めて来ました。欧州を中心に、GDPR(一般データ保護規則)の適用が進み始めており、個人情報の利用には厳しい制限がつけられ始めています。顧客に何のベネフィットも供与することなく、名簿屋的な発想で、自社のデータを高値で収益化できると言うのは、時代錯誤なのです。

DX幻想4.デザインシンキング幻想―クリエイティブごっこでイノベーションが起こせると信じている

 デジタルの関連用語として、よく登場するのがUIUX(ユーザーインターフェース、ユーザーエクスペリエンス)と言う英語文字です。
 スマートフォン画面の上でのデジタルの表現動作が、世のユーザーの行動にとてつもなく多大な影響を与える時代、この表現、つまりユーザーインターフェース(UI)をどうデザインできるかが、ビジネスモデルにおいて、とても重要な意味を持つようになりました(雑談ネタですが、最近、某大手日本企業のCDOが経営会議で「UIって何?AIじゃないのか?」と発言したと言う恐ろしい話を聞きました・・・)。
 さらには、このデジタルの表現を超えて、リアルとデジタルを融合させて、ユーザーにどのような体験(=UX)を提供するのか、この体験をデザインできる力が、企業の競争優位性にすらなって行きます。
 このように、UIUXがデジタル変革において極めて重要な位置を占めるのは、真実です。ここで留意が必要なのは、UIUXを設計して行くプロセスの方です。このプロセス自体が商売チャンスと見られて、デザインシンキングと言う手法が過剰に横行しています。
 私は、デザインシンキングそのものを否定したいわけでは、まったくありません。むしろ私自身、まだ日本ではデザインシンキングという言葉自体知られていない10年近く前に、ローソン社長だった新浪さんと一緒に、スタンフォード大学のdSchool(デザインスクール)や、世界で最もクリエイティブなデザインファームと言われるIDEO社で創業者のトム・ケリーを訪問し、シリコンバレー地域を躍動させるデザイン手法の価値を実感しました。

写真:2012年に訪問した時の、スタンフォード大学 dShoolのキャンパス内

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 ユーザーの洞察に優れたエキスパート、その洞察から快適な体験を設計するデザイナー、そしてそれらから実ビジネスを構築するプロフェッショナルらがタッグを組んで、一連のデザインシンキングを真剣に行うことは、非常に価値のあるプロジェクトです。ただし、理想のUIUXを実ビジネスのオペレーションに落とし込み、収益化まで達成するのは、本当に大変な”ハードシングス”であることは強調しすぎても、しすぎることはありません。
 他方、経営陣が、カジュアルな服装で、アート的な部屋に集められ、ポストイットにフラッシュアイデアを書いて壁に貼って、実ビジネスを知らないクリエイター風な人達といくらセッションを重ねたところで、先取性に触れたような高揚感はあれど、結局は、大人の図工教室の域を出ないのです。
 図工でデジタル変革はできません。

図表:叩き斬るべきDX7幻想

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第1回 DX幻想を叩き斬る 前編
第3回 DX幻想を叩き斬る 後編
第4回 DXの旅

植野 大輔(Daisuke Ueno)
早稲田大学政治経済学部卒、商学研究科博士後期課程 単位満了退学。三菱商事(情報産業グループ)に入社、在籍中にローソンに約4年間出向。ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、2017年1月ファミリーマートに入社、改革推進室長、マーケティング本部長を歴任の後、デジタル戦略部長に就任。デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導。2020年3月、DX JAPANを設立。

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DX JAPAN代表の植野大輔氏が、三菱商事、大手コンビニ、外資系大手コンサルを経て、ファミリーマートに入社、デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導した経験から、DXの実状とあるべきDX実践についてお伝えします。

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