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第3回 店舗、EC部隊と会話する

販売の現場をきちんと理解しよう

 情シスとのコミュニケーションを重ねる中で、全社の業務の流れとシステムについて理解を深めたら、販売の現場に足を踏み入れます。ひとつは実店舗であり、もうひとつはEコマースつまりネット販売の現場です。もしあなたが本社の所属で「現場を変えてやろう」などという考え方で行ったなら、何も前には進まなくなるでしょう。

 私が店舗に居た時、本社からの指示はその多くが”面倒なもの”でした。清掃、開店、納品検品とバックヤード格納、商品棚整理と補充、接客、レジ業務と、毎日常に何か動いているのが店舗です。しかもよほどの大型店ではない限り、一人の人が様々なタスクをこなすシフトで動いています。そこに「リベート(販売褒賞)獲得の為の集中企画販売コーナーを作れ」「今月後半の売上を伸ばす為の施策と数値目標を記入して戻せ」など、本社の商品部門だけでも各担当から何件も、経営企画など他部門含めると無数の業務指示が届きます。基本の日常業務に加えてこれらがどれだけ大変だった事か。もちろん本社側には利益の確保や今後の施策改善などの目的がきちんとあっての業務指示なのですが、お互いの業務理解や前提説明が少ない中では、対立関係になってしまいがちです。

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 EC側でも同様です。商談、コンテンツ作成、商品登録、サイト掲載、問い合わせ対応、メルマガ配信、受注処理、商品ピッキングと梱包、出荷業務、返金/返品対応などの日々の業務で走り回っている所に、本社から様々な業務指示が届きます。特にECは店舗よりも分業や担当業務化が明確になっており、誰かの手が止まると、全体の流れそのものが遅くなる事があります。業種によっては新製品が店舗展開の後にようやく入ってきたり、一方で「全社のインフラなんだから店を支援しろ」と言われたり。よくあるのが「ネットは売上が伸び続けて当たり前、もちろん利益も確保しろ」等々。EC部門は商品/販促/販売/CS/IT/管理と基本的な機能を揃えているので、どうしても本社から独立傾向になります。その中で対立が深まってしまう事があります。

現場の中に入って体験し、一緒に考える

 こうした中で、自らの現場理解を深めるにはどうしたらいいでしょう。私がいつも勧めるのは「店のレジに立って接客してみよう。商品補充や電話対応をしてみよう」です。実際にレジ操作をするだけで、どんな画面があるのか、クーポンなどもバーコード読み取りと画面選択があって、どの機能が使われているのかなど、よくわかります。またお客さまと直接会話をする事で、自社がどのようなイメージを持たれているのか、お客さまのどんな課題を解決したくて来店されているのか体感できます。補充業務によってバックヤードとストッカーがどのように活用されているのか、課題はなにかわかるはずです。
 また店が日々細かい業務やお客さま対応をしながら売上をあげているからこそ、本社業務に専念出来る事を実感するでしょう。一方で、レジシフト表や客注台帳など、紙の業務が複数ある事にも気付くでしょう。一つ一つの業務は先人の努力の積み重ねで、現状では最も効率の良い形になっているでしょうが、紙をタブレットに置き換えたら、という大きな発想の転換は、現場部門では思いついたとしても課題を整理して本社に提案するまではいかないのが実情です。
 ECであれば「まずセンターに行って現場を見てみよう」です。話を聞いてつぶさに観察し、業務をフロー化して理解する。可能ならピッキング作業を経験する。特に返品返金など現場が面倒だと思っている業務をきちんと見て理解しましょう。ECの業務が詳細な分業の上に成り立っている事に気づくでしょう。一方で返品返金対応はシステム外のイレギュラー処理として紙やエクセルを使っているなど、意外とアナログ作業がある事に気づくでしょう。
 こうして現場に足を踏み入れ単に視察するだけではなく、同じ業務を経験する事で自ら理解が深まるのはもちろん、店舗とECのメンバーからも「この人はちゃんと現場を見てくれている」という仲間意識を持ってもらえます。その上で業務ヒアリングをすると課題が良く見えて、現場メンバーも積極的に提案や課題を出してくれて、議論が深まります。いま手元にあるフローはシステムを中心にしたものですが、店舗とECの実際の運用を見て議論する事で、より具体的なフローとなり、会社全体のビジネスを網羅したフローになるはずです。

店舗とECは、もともと仲が悪いもの

 会社によって異なりますが、一般的にEC部隊は、店舗の延長にあるネット店舗としてスタートします。その売上規模が大きくなり実店舗10店舗分くらいの売上を作るようになると、販売だけではなく様々な機能を備えながら組織も大きくなります。しかしながら経営上の認識は1店舗なので、新製品の割り当ても少なかったり、そもそものシステム投資もままならない扱いだったり。
 一方で実店舗はネット販売に売上をとられるという意識が強くあります。この根本的な課題は、売上と利益が社内の主な評価指標になっているからこそ、どちらに売上がつくかで奪い合いになるのです。
 実際にお客さまからしてみれば同じ会社の接点であり、時々の都合で使い分けているだけです。社内の評価をきちんと変えなければいつまで経っても店舗とECは仲が悪いままで協力関係など築けず、お客さまの利便性は向上しません。

数字と業務で見える化する

 お客さま起点で考えたら、どちらでも同じように便利に買い物が出来て、ポイントなども共通化されていれば、よりお客さまのリピートは増えて、会社全体の売上・利益も増えるはずです。店舗とECが個別に商品を仕入れるより、会社としてまとめて仕入れた方が条件も有利になるはずです。システム投資も、共通部分は一緒に考えて投資した方が費用対効果が良くなるはずです。何よりも双方が協力関係にある方が、様々な事でプラスに働きますよね。
 こうして業務でメリットが見えてきたのなら、数値で見える化するのです。
 店舗の数字は店舗別そしてその中の部門別に帳票化されているでしょう。一方でEC側はどうでしょうか。ここも店舗と同じように見える化するのです。

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 自社サイト(本店)、楽天店、Amazon店、ZOZOTOWN店と、売り上げが立つネットの店舗単位できちんと見える化します。さらに店舗同様に商品部門別に見える化すると、社内の誰もが店舗と同じように数値を見る事が出来、ECへの理解が深まります。気を付けたいのは、ページビューやユニークユーザ、コンバージョンなどEC特有の指標を先に出してしまう事です。ECとしては重要な指標ですが、会社全体ではなかなか理解しにくいものです。まずは店舗同様に「売上」「粗利」「販管費」「営業利益」「経常利益」の項目で見える化し、その下にぶら下がるEC部内の指標として使いましょう。出来れば「販管費」を「固定費」と「変動費」に分けて、実店舗との利益構造の違いを明確にするとわかりやすいです。その時には金額だけではなく売上に対する比率、売り比の%を各項目に併記しておくとわかりやすくなります。

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 ここまで出来たら最後の課題です。ネットで見て実店舗へ来店、もしくはネットで注文して店舗で受け取り等、相互に利用されてどちらかに売上がつく場合の評価を定める事です。お勧めするのはECの評価を「A:宅配売上」+「B:ネット受注→店受取売上」=「C:EC関与売上」として、Bの売上と利益は全て店舗につけ、ECは貢献売上(正確には受注実績)とみて評価のみダブルカウント、CのEC関与売上をEC事業の評価に据えていく事です。取り合いになる“売上”を“評価”として双方につける事で現場のモチベーションは大きく変わり、相互協力する形になります。それだけ評価は重要な事なのです。

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 これも全社の業務の流れを把握し、システムの仕組みも理解し、店舗とECの現場を体験したからこそ出来る課題整理です。そして店舗部隊もEC部隊も、あなたを信頼していろいろな相談を持ち掛けるようになります。その課題解決とデジタル化は密接な関係にあるはずです。

 次回はデジタルシフトにおいて本社の要となる「商品部隊と販促部隊との協業」についてお伝えします。

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逸見 光次郎(Kojiro Henmi)
三省堂書店、イーエスブックス(現セブンネットショッピング)、Amazon、イオン、カメラのキタムラ等で店舗とネット(デジタル)の現場を経験、その融合を推進。 現在はオムニチャネルコンサルタントとして独立。現場から経営まで、継続的な顧客満足と企業利益を重視した全体最適視点の可視化により、デジタル化に悩む小売流通企業の支援している。
著書:『デジタル時代の基礎知識『マーケティング』 「顧客ファースト」の時代を生き抜く新しいルール』(翔泳社)

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店舗とネット(EC)の融合という業務に関わってきた経験を生かし、コンサルタントとして小売・流通を見ている逸見光次郎氏が、店舗とネットの両方の視点からわかった、リテールビジネスのデジタルシフトに必要な事を、より現場業務に即した形でお伝えしていきます。

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